5年ぶりの日本での開催(神奈川県藤沢市・江の島)となった国際自転車競技連合(UCI)公認のBMXフリースタイルのワールドカップ(W杯)が2月25日に閉幕し、パーク種目の男子は中村輪夢(世界ランク3位)が4位、同じく溝垣丈司(同23位)が12位となり、女子では内藤寧々(同17位)が7位となった。パリ五輪前、最後の国際大会である同大会のパーク種目では、惜しくも日本人選手の表彰台入りが叶わなかった。
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 同大会にも出場している中村、溝垣、内藤は、パリ五輪予選シリーズである5月の中国・上海での試合と6月のハンガリー・ブダペストでの試合に出場権を持つ、派遣選手に選ばれている。

 そんな7月のパリ五輪にも出場が期待される中村、溝垣、内藤の日本人3選手について、プロBMXライダーであり、東京五輪やXゲームズのテレビ中継の解説を務め、BMXフリースタイルパークのシーンを引っ張ってきたパイオニアでもある、米田大輔ダニエル氏に話を聞いた。 男子パークで惜しくも表彰台入りを逃した中村について、米田氏は「いまリム(中村)は、世界最高峰のレベルに居ると思っていて、今回もしっかり乗れていたと思う」と高く評価したが、同大会については「本当に天気が悪くて、雨で練習時間がほぼ無かった。それでも、ぶっつけで行かなきゃいけないぐらいのちょっとハードな環境だった」と振り返り、そのため「彼が本当に自分の力を出し切れていたかって言われたら分からない…」と話した。

 同じく中村の同大会のプレーについて「魅せてくる技の難易度やクオリティはさすがで、練習時間が無くてもあそこまで仕上げられるのはやっぱり強いと思う」と高く評価した。また続けて中村について「高さも凄いし、誰もやらないラインを走ったり、あと毎大会、必ずニュートリックを入れてきたりするんですよね」と話し、得意なトリックで挑む選手が多いなか、中村に関しては「必ず新しいこととか、ジャッジを驚かすようなことをしっかり狙って、やりに来てるってところも、他のライダーと違うし、かっこいいと思う」と常にアップデートし、進化する中村のライディングを重ねて高く評価した。

 同じく男子パークで12位の溝垣について、同氏は「予選の後に準決勝、決勝って本当はある予定が雨で無くなっちゃったのに、そんな状況でも世界トップ12まで来れてるので、それだけでも、もの凄いところにいると思う」と結果の数字以上に高いレベルであることを話した。さらに「世界で十分に戦える力はある」と評価した上で、「あとはもうちょっと3D技を入れたりとか、トランスファー(セクションからセクションへ飛び移る行為)しながら回って、何かするとか、今大会のトップの3人がやってるような技も組み込んでいけたら、かなり(上位は)上がると思う」と今後の課題についても話した。

 また、溝垣が世界から注目されている理由について同氏は「ジョージ(溝垣)がBMX始めたときから見てるんですけど、本当に唯一無二で、天才的なルーティーンの組み方だったり、バイクコントロールとかが、誰も真似できない領域まで来ていたりして、めちゃくちゃかっこいいんだよね」と大絶賛し、さらに「サーフィンでも、スケートボードでも、スノーボードでも、スタイルのあるライダーって玄人じゃないと分からない良さかもしれないけど、ジョージ(溝垣)のかっこよさは、初めて見た人でも『何かカッケー!』ってなってしまう、人の心に刺さる魅力を持っている」と話した。

 そして、具体的な評価の部分について、はじめは同大会で優勝を勝ち取ったアンソニー・ジャンジャン(フランス)や2位のローガン・マーティン(オーストラリア)を引き合いに出し、「トップ3に入っている選手は、例えば回転系だったり、回転しながら回す系とか、3D系のトリックが多いんだけど、ジョージ(溝垣)は、それよりも高さとかひねりとか、1回転だけど、かなりこだわっててすごい刺さってるとか、スタイルで勝負して評価されるっていうのを証明したパイオニアかもしれない」と話し、続けて「例えば、ハンドルやフレームを何回転、回したかとか、フリップが高いとか、そういうトリックや技に走るのではなくて、BMXの本質的で、クラシックな要素とかも入れつつ、それでいて結果を残している面白いやつだから、世界からも注目されている」と、スキルだけでなく、溝垣が持つ唯一無二のスタイルを評価した。
  同大会の女子パークで7位の内藤について、米田氏は「いま女子の世界では中国とかのライダーのレベルがめちゃくちゃ上がってきている」と話し、今大会でも3位入賞するなど著しい成長を見せる中国勢に言及しつつ、そんな中で世界で上位に行くためには「回転系とか、高さのあるトリックとかもガンガン組み込んでいく必要がある」と話した。

 同氏は、内藤が更に高いレベルで世界と戦っていくためには「本当に進化していかないと世界に置いていかれちゃうところは絶対あると思う。でも、まだまだ成長する伸びしろが全然あるから!」と話し、「課題があるとしたら?」という質問には「選手にとって一番目の課題が恐怖に打ち勝つみたいな部分なんですが、もう十分に攻めているとは思うけど、更にもっと攻めに行くとか、今大会のトップ3にいる子たちって、死ぬほど攻めて、ギリギリのところまで行っていると思うんです。同じようにねねちゃん(内藤)も攻めていけるようになれば、上位に刺さるのかなと思っています」と内藤の課題について話した。
  パリ五輪予選シリーズは残り2戦となっており、5月16日から19日に中国・上海で行なわれ、6月20日から23日にハンガリー・ブダペストで行なわれる予定だ。

 米田氏は、また3選手について「世界で十分に戦える」と話し、まず「リム(中村)が表彰台を取らなきゃ。本人も狙っていると思うし」と中村の表彰台入りに期待を寄せ、続けて「オリンピック予選もしっかり勝って、間違いなくパリに行ってメダルを期待したい‼」と力強く語り、パリ五輪での初のメダルに期待を寄せた。

 またインタビュー終了後、同氏は7月のパリ五輪出場が期待される3選手以外にも「日本には良い若手の選手がたくさんいる」と話し、さらに「 レベル的に言えばBMX大国と言えるぐらいになってきている」と近年BMX人口が増えてきたことにも言及し、日本のジュニアのレベルに関しては、もはや「世界で一番レベルが高い」とも語った。

 米田氏の話しを聞く限り、「世界で十分に戦える」実力を持った中村、溝垣、内藤、の日本人BMXライダーの残り2選の五輪選考大会の活躍にも注目していきたい。

 中村は、京都府京都市出身の22歳。父親の影響で幼少期から BMXに乗り始め、5歳で大会に初出場し、中学生の時にプロ転向を果たした。2021年の東京五輪BMXフリースタイルのパーク種目では5位入賞という結果を残し、22年には世界選手権で日本人初の優勝を果たした。今、国内で最も五輪に近いBMXライダーだ。(世界ランキング第3位)
 
 溝垣は、神奈川県藤沢市出身の18歳。小学校の入学前に、鵠沼海岸のスケートパークで BMXを見たのがきっかけで自身も乗り始める。2022年ベルギーで行われたワールドカップで独特のスタイルが世界から評価され、日本人として 2 人目となる準決勝進出を成し遂げた。いまBMXの次世代を担う選手として世界から注目されているライダーのひとりだ。(世界ランキング第23位)

 内藤は、神奈川県川崎市出身の18歳。2021年に全日本選手権初優勝(女子エリートクラス)。その後、BMXフリースタイル・パーク種目の強化指定を受け国際大会にも多数参戦。いま国内でパリ五輪の出場に最も近い女子ライダーと言われている。(世界ランキング第17位)

 米田氏は湘南を拠点とするプロBMXライダーで、東京五輪新種目「BMXフリースタイルパーク」のシーンを引っ張ったパイオニア的存在だ。17歳でBMXを本格的にはじめ、国内大会に出場し始め、アメリカやオーストラリアでもトレーニングを積んだ経験がある。またダイナミックな回転技「コーク720」やバンクでの「フロントフリップ」などを日本人で初めて成功させた選手でもある。近年は、東京五輪やXGamesのテレビ中継の解説や、BMXショーなどにも積極的に参加している。

取材・文●柳下大護(THE DIGEST編集部)

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